ざれごと。
木でできた床、手すり。
床にあいた穴は、食べ残したパンを崩して捨てたりするのに便利だった。
3月生まれで体の小さいわたしには、残してはいけない給食は、友達と遊べない苦痛の時間でしかなかったから。
気がついたときにはピアノを習っていた。
ただただつまらない、バイエルだけを教わっていた。
休み時間になると、オルガンの周りには、ピアノを習う女子が集まった。
誰よりも進みの遅いわたしは、聞いたこともない素敵な曲を弾くクラスメートを、羨望の目で見ていた。
「足していくだけで弾けるんだよ」と言って、クラスメートが結婚行進曲を弾いていた。
当時は、それは誰が作曲したかなんて、知らなかった。
聞き覚えのある曲。
新鮮な驚きだった。
身内でお祝い事があるので、急遽、キーボードで結婚の曲を弾くことになった。

先生が貸してくれた曲集の結婚行進曲のひとつに、メンデルスゾーンがあった。

ああ、あのときの曲は、これだったのか。
40年以上たって、やっとわかったぞ。
小学校の教室。
「足していくだけで弾けるんだよ」
「わあ」
「ほんとだ!」
喜んでくれると、いいな。
そう考えながら練習していると、
懐かしい甘酢っぱいような気持ちの中に、
苦みのある後味が残る。
どうしてわたしは、あのとき、ピアノを続けなかったんだろう・・・。
考えても、仕方がないのにねえ・・。