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アルトの主張

さて、さんなわけで今日も中年男女が古い小学校の音楽室に3人集まって、合唱の練習に励んでいました。

「ちょっと待ってよ!そんなに速かったらわたし歌えないないわよ」

どんどんテンポをあげようとするバス君に、ソプラノちゃんが待ったをかけました。

「だいたいみてよ、これ。わたしのパートだけやたら弾きにくいのよ?」

6から7小節です。

確かに、アルトにもバスにも同じようなところはあるけど、ソプラノの弾きにくさは群を抜いています。

「けどさあ。これは速い曲だって先生言ってたろう?遅い3番なんておかしくないか?」

「でも、音を出すだけで必死だから、そこ、アルトが聞こえなくなるじゃん、それでいいわけないわよ」

「お前がもっと手首の力を抜けばいいんだろう?」

「・・・いわれなくてもわかってるわよ、でもできないのよ!だいたいバスだって、遅れがちなところ、あるわよ?11小節とか12小節。
ノンレガートだって統一できてないじゃない。」


「言っとくけど俺だってほかにやりにくいところあるぜ?16小節とかさあ。最後のころなんて覚えるまで勝手に音が出るようになるまで練習しないと歌えないよ?お前なー・・・人のこととやかく言ってる場合かよ、家で練習してんのか?」

「・・・・!してるに決まてるでしょ!?でもわたしはバスと違って仕事のほかに家事もあるのよ?」

「おい、俺が忙しくないとでも思ってんのか?」

 
「ちょっと待って!」

突然、黙っていたアルトが口をはさみました。

「ねえ、わたしたち、歌うんでしょ?」

アルトの剣幕にぎょっとして、ソプラノとバスは黙り、アルトを見ました。

「歌うってのは、音を並べること?間違えないこと?速いこと?音が汚くないようにすること?音が切れないようにすること?縦がずれないようにすること?歌うのはほんとに難しいよ。八分音符だってテーマだって歌い方はそろえるべきだよね。テンポがぶれてもだめだし。何より、自分が歌うだけで精一杯で、ソプラノの声もバスの声も聞こえなくなるし、ずれちゃう。

でも、本当に大切なのは、そういうもろもろの音楽の決まりじゃなくて、歌だよね?歌う心だよね?

何を今さらって思うかもしれない。ミスしないようにするために小学校の時、大会の練習であれだけ頑張ったよね。あの頃は、歌詞の意味も考えないでただ歌ってた。先生がそう言うから。そうしないと点が取れないから。

もちろん、音楽の決まりはすごく大事だよ。それがなくて歌うのは、だめだよ、ましてシンフォニアだもん。

けど、本当に大事なのは、正確に音を並べること?違うよね?

わたしたち、なんでまた、3人でやろうってことになったんだっけ?

歌が好きだからでしょ?

この曲で言いたいことは、子供が立派になった嬉しさと子供が家を出ていくつらさ、寂しくてもそれでも社会に送りだして、子供にああしてくれないとかこうしてくれないとか言わずに、自分に自信をもって、誰かに頼らずに自分の足でしっかり立って、別々に暮らしても、たとえば1年に1回会えなくなるかもしれなくても、小さかったころのあの子は、もうどこにもいないけど・・・・家の中のあそこにもここにもあちこちに、ママーって、笑顔でいるのに、もう二度と、会えないけど・・



アルトは涙をこぼしながら、それでも続けました。

「それでも、自分のことを好きで、自分自身も子供のことも信じて、生きていくっていう、老後になる前の覚悟でしょう?離れて暮らす子供の幸せを祈る親の気持ちでしょう?それを、歌おうって決めたんじゃない・・・・・もう、ケンカするの、やめようよ。先生の指定するテンポで歌えてるけどその言いたいことが入ってない歌と、ゆっくりでも言いたいことがつまっている歌と、どっちがいいの?」

一気に話すと、アルトはバッグからハンカチを出して、涙を乱暴にぬぐいました。

いつのまにか、ソプラノも泣いてました。そして静かにこう言いました。

「アルト、言いたいことが入ってる歌を、歌いたいよ」

「ごめん・・・俺が悪かったよ。もう二人とも、泣くなよ。ゆっくり歌おう。傷があってもいいよ。俺たちらしく、歌おうぜ、何しろ中年だしなあ。俺なんかこんなにはげちまった。腹なんかみてみろよ。昔とは違うよ」

バスが笑うと、アルトとソプラノも笑いました。

「・・・・最初からやろう。ゆっくりだ。」

「うん!でもちょっと待って。化粧落ちちゃったからトイレ」

「なんだそりゃ」

ソプラノがトイレへ行くと、バスはアルトに言いました。

「アルト、ありがとな。」

「ううん、大きな声出してごめん。」

「お前・・・・変わったな。」

「えっそう?」

「うん、今のほうがいいよ、ガキの頃よりさ」



窓からは夕日が差しています。

懐かしい小学校。

アルトは、いつまでもこの時間が続くといいなと思いながら、校庭を見ていました。




はい!ということで(笑)、傷だらけですが、今日のシンフォニア3番です。

こんなんでも、小さかった頃の子供がママーっていってる姿を思い出しながら弾きました。

テーブルの下にも、庭にも、こたつの中にも・・・

洗濯を干しながら、お茶碗を洗いながら、

「ママ、聞いて、今日学校でね!」

「ママ、みてー!」

・・・・・・

ピアノがあって、ブログがあって、よかったなあ・・・・。







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2021.05.02 Sun 21:31

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ねこぴあの

鍵コメさんへ

ねこぴあの
2021.05.02 Sun 23:40

鍵コメさん、そうだったんですね・・・つらいことを思い出させてしまってごめんなさい。

>アルトさんの気持ちで綺麗にまとまって良かったです。ねこぴあのさんの気持ちがそうなったのですね。

あ~~そうか、そういうことですよね。
アルトの気持ちはわたしの気持ちだ!←言われて気が付くという(;^_^A

50を過ぎて、ましてや仕事が訪問看護、老後をものすごく意識するようになったんです。
心構え、というのかな・・覚悟が必要だなと、すごく思うようになりました。
ついこの間まで家にいた子供がいない、なんでも当たり前のことはないですね。
あと一人いる子供が家を出ていくまでの日々を大切にしようと思います。