ピアノの森って漫画読んだことありますか?
わたしは全巻持ってるんですが、アダムフスキという青年がいて、準主人公の雨宮との会話は作中でとても重要なシーンなんです。
2人ともショパンコンクールの出場者です。
アダムフスキのせりふを、一部紹介します。
「僕は小さい頃に天才少年だと持ち上げられていい気になっていたんだ
大の大人もへこへこするし王様になった気分で・・
気づいたら自分に厳しいことを言う人間を排除して、僕に気持ちいいことを言う人間ばかりをそばに置いていた
でも少しずつ客が集められなくなって・・
あるとき僕の陰口を言ってるのを聞いてしまったんだ
僕は少しずつおかしくなっていって・・・
どうしていいかわからなくなって何度も教会に足を運んだんだ
1人になりたくて・・・周りから作られた自分ではなく本当の自分と向き合おうとして・・
僕は貴公子みたいに持ち上げられているけど、本当は僕んち、すごい貧乏なんだ
親父はアル中で母親は病気がちで・・兄弟は多いし
僕は運良く支援を得て学校に行かせてもらってたけど・・・
公演して回るとお金になるからさ学校はさぼってばかりいたんだ
でもそんな不勉強な僕をいつも叱る先生がいて・・
僕はその先生に
『今では僕のほうがずっと上手くピアノが弾ける!僕は先生みたいな貧乏な大人にはなりたくないんだ!先生はみじめだ!』
僕には大事な・・・大事な先生がいたのに
僕はひどいことを言って傷つけ失った
僕は・・・自分を心の底から最低なやつだと思ったよ
そんなことにも立ち止まってみるまで気づかなかったんだ
でも自分を完全に見失ってしまう前に気づいてよかったと思ってる」
こう言われてもなお雨宮は、自分の気持ちが危ない局面にいる自覚を持てず、1人の人間としてもピアニストとしても、苦しんでいました。
すると次に2人はトイレでばったり出会います。
一次に落ちたアダムフスキは受かった雨宮に、「二次を楽しんで!」と言うと、突然雨宮は、「僕は楽しんでなんて弾けない」と言い出し、こう続けました。
「僕はここで勝たなきゃならない相手がいるから・・だから僕は・・・
そのために僕は・・・120%、200%の努力をしてきたんだ
1日24時間ううん26時間・・・僕はこのコンクールのために誰にも負けない練習をしてきた
もうこれ以上は頑張れない」
雨宮は泣いています。
するとアダムフスキはこう言いました。
「誰よりも練習してきただって?はは僕が練習してこなかったとでも?
こんなこと言いたくないけど・・自分だけが頑張ってるみたいなことは言うな!
あんまり当たり前すぎて言うのも嫌だけど
好くなくとも二次に進む30名はお前と同じくらい練習なんてしてるぜ
そんなの当たり前のことなんで・・・努力してるなんてお前みたいに思わないだけだ
誰よりも頑張ってきただって?何それ苦行の話?
そこをよりどころにしていたら・・・
後は寝ずに飲まず食わずに倒れるまでやるしかなくなるじゃないか!
そんな張り詰めたピアノ・・・誰に聴かせたい?誰が聴きたい?
おまえってなんのためにピアノを弾いてるの?
檻の中で自分のためだけに弾きたいわけじゃないんだろ?」
すると雨宮の心の中で何かがはじけます。それは大きなショックでした。
足下が崩れそうな感覚の中、雨宮は言います。
「じゃああなたはどれくらいのレッスンを?確かこの前大切な先生と決別した・・と話していたので」
アダムフスキは答えます。
「ああ・・ラハエル先生だ。はは・・・
僕はショパンと旅をしてたんだよ!
ショパンの足跡をたどって無料ライブや演奏会をしながらショパンの心を知ろうとしてたんだ
3年かけて旅をして・・何人かの親切なピアノ教師にみてもらったり
尊敬するピアニストに弟子入りみたいな真似もした
でも戻るところはやっぱりラハエル先生・・・
基本は・・・大切なところはすべてラハエル先生の教えだったよ」
今までずっと、誰かに自分の弱さを見せなかった、ずっとライバルに勝つために頑張ってきた雨宮は、
「僕はほんとに努力することしかなくて・・
でもそれがみんなには当たり前のことなら・・・
僕のピアノには・・なにか他にとりえはあるんだろうか?」
と、子供のようにアダムフスキに問います。
アダムフスキは答えました。
「あはは何それ?そんなこと真面目に言ってるの?今頃・・
あのさ・・ピアノって、誰が弾いても簡単に音が出るだろ
だから技術的に上手く弾くとごまかされちゃうんだけど・・
だからこそ自分だけの音色・・響きを出すのが難しいんだけど・・
ピアノはあくまでも楽器であって、表現者は自分なんだよ!
表現する者にハート思い・・イメージがなかったら・・
自分とピアノの向こう側にいる人間には技術しか伝わらないんだ
つまり早い話・・
君の心は君だけのものだから
きみのピアノのセールスポイントは君自身、君が全てなんだよ
分かってる?君がピアノに命を与えるんだよ!」
雨宮はなおこう言います。
「だったら僕には何もない!空っぽなんだ」
「ははは・・・馬鹿言うなよ
空っぽなやつに努力なんかできるわけないだろ
大丈夫!君はピアノに真摯でまっすぐだ!
17歳のまっすぐなピアノは、それだけで十分新鮮で魅力的なんだよ!」
ここでやっと、ずっと長いこと苦しんでいた雨宮の心の殻が破られることになりました。感動的なシーンです。わたしははじめて読んだとき、ああ、わたしはわたしのピアノを弾けばいいんだ、と思わず泣きました。
話を戻すと、その会話の後、アダムフスキは華やかなコンクール会場を出て、1人寂しく外に出ます。
外で彼を待っていたのは、なんと、ラハエル先生でした。
思わず泣いてしまう彼に先生は、
「ショパンに聴かせたかったな・・・本人が聴いたら、きっとおまえさんを大好きになるよ!」と優しく言うのでした。
この漫画を読んだとき、ああ、確かに大切なことはみんな最初に教わっているなあと、自分の仕事と照らし合わせて、感じました。
そして、ならきっと、ずっと最初から教えてくれている今の先生は、わたしのラハエル先生なんだろうな、とも思いました。
「ピアノのレッスンは実は大変シンプルなんです」と前に話していたのはわたしの師匠。
大切なことは、すごくシンプルで、実は手の中にあるのかもしれませんね。
漫画の、ピアノのを弾くアダムフスキの横にラハエル先生の幻影がいますね。
練習してると、先生の声が聞こえてくること・・ありますよねぇ^^
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